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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.01.20:第35回 私の回顧録

仕入れ編
〜サンプル作り 2〜

◾️ はじめに|サンプル作りは、静かな現場仕事

みなさん、こんにちは。
前回のコラムでは、仕入れ編のスタートとして、 生地通販におけるサンプル作りの全体像と、その規模感についてお話ししました。

年間1,700種類を超えるサンプル。
数百万枚に及ぶ見本生地。

数字だけを見ると壮大ですが、 実際の現場はとても地道で、 静かな作業の積み重ねでした。

今回は、そのサンプル作りの「裏側」に、 もう一歩踏み込んでお話ししていきます。

企画だけでなく、可能な限り工程を社内で完結させる。 それはコスト削減のためでもありましたが、何よりも「生地の魅力を正確に伝える」ための選択でした。


◾️ サンプルの主役|“バラ見本”

サンプル作りの中心となっていたのが、 「バラ見本」と呼ばれるサンプルです。

定番サンプルのように製本されたものではなく、 一枚一枚が独立し、紙の台紙に貼られた状態のサンプルを指します。

台紙は、A4サイズの紙を縦長に使い、さらに半分に折った形状。 その限られたスペースに、生地の魅力を凝縮させる必要がありました。


◾️ なぜ“バラ”なのか|使う側目線の合理性

バラ見本の最大の特徴は、「自由度の高さ」です。

・ 品切れ商品は抜くだけ
・ 新商品は差し込むだけ
・ シーズンごとの入れ替えが容易

通販という業態では、商品が常に動きます。 その変化に柔軟に対応できるのが、バラ見本の強みでした。

一方で、当然デメリットもあります。 「バラバラで探しにくい」という点です。

ただ、長年取引をされているお客さまは、 届いたサンプルを自分なりに分類し、ファイリングし、 それぞれの“使いやすい形”を作り上げていました。


◾️ サンプルの貼り方|見せるための工夫

1枚の台紙に貼る生地は、基本的に3枚程度。 ただし、これはあくまで目安でした。
・ 類似商品がない場合は1枚
・ 色数が多い場合は2枚の台紙を使用
・ 見開きで最大10枚まで貼るケースも
状況に応じて、柔軟に調整していました。


◾️ あえて“全面接着しない”理由

生地は、上部だけを糊で固定していました。

これは、見た目の問題ではありません。 お客さまが指先で生地をつまみ、揺らし、触れるためです。

洋裁において重要なのは、色柄だけではありません。
・ 厚み
・ 柔らかさ
・ ハリ
・ 落ち感
これらは、触って初めて分かるものです。
サンプルは「見るもの」であると同時に、「触るもの」でもありました。


◾️ サンプル生地のサイズ|数ミリ単位の調整

バラ見本の標準サイズは、
横:8.4cm
縦:4.3cm
このサイズに落ち着くまでにも、試行錯誤がありました。

貼る枚数が増える場合には、縦の長さを短くし、 5枚貼る際には縦3cmに調整するなど、 限られたスペースを最大限に活かす工夫を重ねていました。


物差し

◾️ 生地カットの第一工程|“荒切り”という仕事

サンプル作りは、まず荒切りから始まります。

この寸法は、裁断機のサイズに合わせて設定されたもので、 作業効率と生地ロスを最小限に抑えるための工夫でした。


◾️ 数字で見る、生地使用量の現実

例えば、
・ 生地幅112cmの場合
 → 77cmカットで約12.87m
・ 生地幅150cmの場合
 → 約9.24m
平均すると、1品番あたり約10mの生地が必要になります。

バラ見本が1,400種類あれば、 単純計算で14,000m。

この量を、無駄なく、過不足なく使い切る。 仕入れ担当として、常に頭を使うポイントでした。


◾️ 台紙の量も、想像以上

生地だけではありません。
台紙の使用量も、桁違いでした。
・ 年間使用枚数:約160万枚
毎週、
・ 社内で3〜5万枚分の生地をカット
・ それを内職さんへ引き渡し
・ 翌々週に完成品として戻ってくる
このサイクルが、途切れることなく回っていました。

裁断機

◾️ 内職さんとの信頼関係

内職さんは、毎週決まった曜日にサンプルを引き取りに来てくださり、 黙々と、正確に、同じ品質で仕上げてくださいました。

貼り方が少しでも違えば、すぐに分かります。 それほど、サンプルは繊細な仕事でした。

顔を合わせ、言葉を交わし、 「いつもありがとうございます」 その一言が、現場を支えていました。


◾️ 裁断専任者という、縁の下の力持ち

社内には、裁断専任のスタッフがいました。

私が入社した直後から、 通信販売が終了するまで、15年以上。

毎日、毎日、生地を裁断し続けた方です。

その間にカットした生地の総数は、 1億枚を超えているかもしれません。

この仕事がなければ、サンプル作りは成り立ちませんでした。 改めて、心から感謝しています。


◾️ サンプルは“文句を言わない営業員”

私に仕入れの仕事を教えてくれた番頭さんは、サンプルのことをよく「文句を言わない営業員」と呼んでいました。

こちらが何も説明しなくても、 生地の魅力を、静かに、そして正確に伝えてくれる。

だからこそ、 一つひとつの作業に、妥協はできませんでした。


◾️ 地味な作業の先にあるもの

サンプル作りは、派手さはありません。 しかし、その積み重ねが、確実に売上へとつながっていきます。

仕入れの仕事は、 「表に出ないからこそ、重要」 そんな仕事だと、私は思っています。


◾️ 次回予告|サンプルは、どこから始まるのか

次回は、 について、サンプル作りにおける“企画”の部分さらに詳しくお話しします。

どんな基準で生地を選び、 どんな意図でラインアップを組んでいたのか。

引き続き、仕入れ編をお楽しみください。


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