2026.04.01:第106回 私の回顧録
中国縫製の日本営業5
〜新たな課題〜
みなさん。こんにちは。
前回のコラムでは、「ウェブサイト開設後」というテーマのもと、中国縫製の強みについて改めて見つめ直しました。
当初は「価格競争力こそが最大の武器」と考えていました。実際、これまでの経験でも価格は非常に強力な要素であり、多くの場面で武器として機能してきました。
しかし現実の市場では、その前提が必ずしも通用しないことが徐々に明らかになってきました。
テーラーの多くは、単純なコストダウンではなく、「どれだけ価値のある一着を作れるか」「どれだけお客様に満足していただけるか」を重視しています。
つまり価格は重要な要素ではあるものの、それ単体では意思決定の決め手にはなりにくいという現実があったのです。
そんな中で見えてきたのが、これまで“弱み”と考えていた部分――
個別対応力でした。
本来は非効率で、改善すべき対象であったこの対応力が、
実は市場のあるニーズに対して強く刺さる可能性を持っていることに気づいたのです。
今回は、その「武器」を実際に使ってみた結果どうだったのか、
そして、その過程で直面した現実的な課題について、より深くお話ししていきます。
◾️ “短所が武器に変わる瞬間”という気づき
もともと個別対応は、仕組みが整っていないことによる“やむを得ない対応”でした。
本来の理想は、標準化されたパターンとルールの中で、効率的に、再現性高く生産していくことです。
しかし現実には、毎回異なる上がり寸法に合わせて型紙を作るという、非常に手間のかかる運用をしていました。
この状態は、当初は明確に「課題」として捉えていました。
ところが、この非効率なプロセスが、
「他では対応できないものを作れる」という価値に変わる瞬間があったのです。
この気づきは、単なる作業の見直しではなく、
ビジネスの見方そのものを変える大きな転換点でした。
◾️ 「本当に作りたいものが作れない」という市場
テーラーと話をしていく中で、意外な声を耳にしました。
それは、「思い通りに作れない」という不満です。
既存の量産型工場では、
・ 決められたパターン
・ 限られたオプション
・ 標準化された仕様
といった制約があるため、細かな要望に応えきれないことが多くありました。
つまり、品質の問題ではなく、
自由度の低さが課題だったのです。
これは、外から見ているだけでは気づきにくい、現場特有の悩みでした。
◾️ だからこそ生まれる“個別対応の価値”
この課題に対して、中国工場の対応は、ある意味で真逆でした。
制約がない分、自由度が高い。
細かな寸法調整や仕様変更、
場合によっては通常では受けないような要望にも対応できる。
もちろん効率は悪く、ミスも起きやすい。
それでも、「できる」という事実は大きな価値でした。
このとき初めて、
非効率=弱みではない
という認識に変わりました。
◾️ 「来るものは拒まず」という営業姿勢
当時は、とにかく受注を増やしたい状況でした。
そのため、「選ぶ」というよりも「受ける」姿勢でした。
多少難しい内容でも、
経験のない仕様でも、
まずはやってみる。
リスクは理解していましたが、
それ以上に「前に進むこと」を優先しました。
結果として、この姿勢が新しい気づきにもつながっていきました。
◾️ イメージ共有から始まるものづくり
実際の受注は、決して整った状態から始まるわけではありませんでした。
・ スマートフォンで撮影された写真
・ 雑誌の切り抜きのような画像
・ 簡単なイラスト
・ 言葉だけの曖昧なイメージ
こうした断片的な情報をもとに、「これを形にしてください」という依頼が多くありました。
つまり、仕様書が整っている案件はむしろ少数で、
“イメージを読み取る力”そのものが仕事の中心だったのです。
ここで重要になるのは、単なる翻訳ではなく、
「相手が何を作りたいのか」を理解する力です。
このプロセスは非常に時間がかかり、
時には何度もやり取りを繰り返しながら、少しずつ形を明確にしていきました。
しかしこの工程こそが、
個別対応の本質であり、価値の源でもあったと感じています。
◾️ WeChatを活用したやり取りの実態
やり取りの中心はWeChatでした。
スピード感は非常に高く、即時性のあるコミュニケーションが可能でした。
しかしその反面、
情報が時系列で流れてしまい、整理されないまま蓄積されていくという問題もありました。
重要な情報が埋もれてしまうことも多く、
後から確認するのが難しいという課題もありました。
◾️ 言葉の壁ではなく“理解の壁”
言語としては通じている。
しかし、意味としてはズレている。
この状態が最も厄介でした。
特に専門用語や仕様に関するニュアンスは、
微妙な違いが大きな結果の差につながります。
ここに、見えにくい「理解の壁」が存在していました。
◾️ 伝言ゲーム”という構造的リスク
受注の流れは、
受注元 → 私 → 貿易担当 → 工場
という構造でした。
一見シンプルですが、実際にはそれぞれの段階で解釈が入ります。
例えば、
「少し細めに」
という表現一つでも、受け取り方は人によって異なります。
このような曖昧な表現が重なることで、
最終的にはまったく違う形になることもありました。
さらに、「言った・言わない」の問題も発生し、
責任の所在が曖昧になるケースもありました。
この構造そのものが、
ミスを生みやすい仕組みだったのです。
◾️ 見逃される仕様変更という落とし穴
似た注文が続くと、
現場では「前と同じだろう」という認識が働きます。
しかし実際には、細かな変更が入っている。
このズレが、大きなミスにつながりました。
◾️ ミスを記録するという地道な改善
ミスは避けられない。
だからこそ、記録する。
原因を分析し、次に活かす。
この繰り返しでした。
しかし、改善は一筋縄ではいきません。
一つ解決すれば、別の問題が出てくる。
終わりのない戦いでした。
◾️ 取引停止に至った苦い経験
トラブルが重なり、取引が終了したケースもありました。
この経験は非常に重く、強く記憶に残っています。
信頼は積み上げるのに時間がかかる。
しかし崩れるのは一瞬。
その現実を、痛感しました。
◾️ 理想と現実の間にある“検品の壁”
本来であれば、最終検品を徹底するべきでした。
しかし現実には、それができない場面も多くありました。
〜人手と時間の制約という現実〜
貿易担当者も多くの業務を抱えており、
時間的余裕がありませんでした。
納期もあり、
確認よりも出荷を優先せざるを得ない状況もありました。
〜“できるけど安定しない”というジレンマ〜
対応はできる。
しかし安定しない。
この状態は、営業として最も難しい状態でした。
◾️ もう一つの大きな壁「物流コスト」
さらに深刻だったのが物流費用です。
日本から中国への輸送は想定内でしたが、
中国から日本への送料は、想像以上に高額でした。
特に小ロットでは、
製品原価よりも送料の方が高くなるケースもありました。
また、工場が郊外にあるため、
集荷コストも上乗せされていました。
さらに、地域差もあり、
都市によって価格が大きく異なるという問題もありました。
結果として、
**「作れるのに運べない」**という状況すら生まれていました。
◾️ まとめ
今回の経験を通して、強く感じたことがあります。
それは、
**「強みは単体では成立しない」**という現実です。
個別対応という武器は確かに存在しました。
しかし、それだけではビジネスとして成立しません。
品質、納期、コスト、伝達精度――
これらすべてが揃って初めて、信頼は生まれます。
そしてもう一つ重要なのは、
「できること」と「任せてもらえること」は別物であるということです。
技術的に可能であっても、
安心して任せられる状態でなければ、選ばれません。
ビジネスとは、単発の成功ではなく、
継続できる仕組みの上に成り立つものです。
今回の経験は、
その土台の重要性と難しさを、これ以上ないほど教えてくれました。
◾️ 次回予告
次回は、これらの課題に対してどのような施策を考え、実行していったのかをお伝えします。
一つの仕事にフォーカスしながら、さらにリアルな現場の動きを深掘りしていきます。
ぜひ、次回も楽しみにしていてください。