2026.04.13:第118回 私の回顧録
現在の仕事
〜新しい取り組み〜
みなさん。こんにちは。
前回までのコラムでは、私の幼少期から学生時代、そして約40年にわたる糸偏の仕事について、できる限り時系列に沿ってお話ししてきました。
思い返せば、本当に長い年月でしたが、その一つひとつの経験が、今の自分の判断や価値観の礎になっていると、改めて実感しています。
前回お伝えした「機屋の仕事:まとめ」。
これは決して過去の総括ではなく、今この瞬間も続いている“現在進行形の仕事”です。
これまで積み重ねてきた内容は、一つの区切りとしてコラムという形に整理することができました。
だからこそ、これからは「今」を軸に、よりリアルタイムな視点でお伝えしていこうと思っています。
とはいえ、「今」を語る中で、必ず過去との対話が生まれます。
過去の自分が何を考え、どう判断し、どう動いてきたのか。
そして今の自分が、それをどう見つめ直しているのか。
この“時間を超えた対話”こそが、次の一歩を導くヒントになる。
そんな実感を持ちながら、これからのコラムを書いていきたいと思います。
◾️ 「過去と今」をつなぐ、新しいフェーズへ
これまでの連載は、いわば「積み重ねの記録」でした。
一つひとつの出来事や判断を振り返りながら、経験を言語化していく作業でもありました。
しかしこれからは、その記録に加えて、もう一つの軸が加わります。
それが「現在進行形の挑戦」です。
過去を振り返ることは、懐かしむためではありません。
あくまで「今をどう進むか」を判断するための材料です。
そして今、機屋としての仕事は、確実に新しい局面へと入りつつあります。
これまでの延長線上にありながらも、少し違う角度からのアプローチが求められている。
そんな感覚があります。
◾️ 新たなテーマ「スーツ以外への展開」
現在、取り組んでいるテーマの一つが、
「スーツやジャケット以外の製品づくり」です。
これまで私たちは、基本的にスーツ用途の生地を中心に展開してきました。
そこには確かな技術と経験があり、今でも変わらない強みです。
ただ、その積み重ねの中で、ある問いが自然と生まれてきました。
「この生地、もっと違う形でも活かせるのではないか?」
これは単なる発想の転換ではなく、これまでの経験があったからこそ出てきた視点です。
素材としてのポテンシャルを、別の角度から見直す。
そこに、新しい可能性があると感じています。
◾️ すべては一言の相談から始まった
今回の取り組みのきっかけは、とてもシンプルなものでした。
取引先の方との何気ない会話の中で出てきた、一言の相談です。
仕事柄、車での移動が多く、
スーツやジャケットよりも、もう少し気軽に羽織れるものが欲しい。
しかし体型的にXL以上になるため、
既製品ではサイズが合うものがなかなか見つからない。
さらに言えば、
「ただ大きいだけではなく、ちゃんと洒落たものが欲しい」
この言葉には、非常にリアルな切実さがありました。
同時に、「まだ満たされていないニーズ」がはっきりと見えた瞬間でもありました。
◾️ 「サイズがない」という見落とされがちな課題
ファッションの世界では、どうしてもデザインやトレンドに目が向きがちです。
しかし現実には、「サイズが合わない」という問題は非常に大きな課題です。
特に体格の良い方にとっては、選択肢が限られてしまう。
そしてその中で、「仕方なく選ぶ」「どこか妥協する」という状態が当たり前になっている。
本来であれば、ファッションは自由であるべきものです。
体型によって選択肢が制限されるというのは、本質的には解決されるべき課題だと感じています。
この領域には、まだ十分に応えられていない市場がある。
そう確信しました。
◾️ 社長からの一言で動き出した企画
この話を受けて、社長から一言。
「自社の生地で、大きいサイズのブルゾンを作れないか?」
この言葉が、今回のプロジェクトのスタートでした。
単なるアイデアではなく、「実際に形にする」という前提での話。
ここから一気に、具体的な検討へと進んでいきました。
機屋として、素材を提供するだけではなく、
その先の製品まで関わる。
これはこれまでとは少し違う、新しい挑戦です。
◾️ イメージは“ドリズラージャケット”
どんなアイテムにするか。
検討を進める中で出てきたのが、ドリズラージャケットでした。
軽く羽織れて、動きやすい。
それでいて、きちんとした印象もある。
オンとオフの中間に位置するような、絶妙なバランス。
今回のニーズには非常に合っていると感じました。
◾️ 頭に浮かんだ名品「バラクーダ G9」
この話を聞いた瞬間、私の頭に浮かんだのが「バラクーダ G9」です。
約45年前、学生時代に流行していたモデル。
友人が着ていた姿が、今でも記憶に残っています。
当時は購入には至りませんでしたが、
その完成されたデザインは、強く印象に残りました。
時代が変わっても色褪せない。
まさに“定番”の強さを体現した一着です。
◾️ ベーシックの強さを改めて実感
年齢を重ねるほどに感じるのは、ベーシックの持つ力です。
一時的な流行ではなく、
長く愛され続ける普遍性。
今回の企画でも、この軸は外せないと考えました。
奇抜さではなく、「長く着られる価値」。
そこにフォーカスすることで、結果として多くの方に受け入れられるものになる。
そう考えています。
◾️ 「スーツ生地でブルゾンを作る」という発想
そこで出てきたのが、
スーツ生地を使ったドリズラージャケットというアイデアです。
通常、ブルゾンには専用素材が使われます。
しかしあえて、スーツ用の生地を使う。
そうすることで、
カジュアルでありながら、どこか品のある仕上がりになる。
この“中間のバランス”こそが、今回の企画の核です。
◾️ 生地から作るという強み
もちろん、生地は既製品ではありません。
自社で設計し、織り上げる。
用途に合わせて、風合い、厚み、ストレッチ性、耐久性まで調整できる。
これが機屋としての最大の強みです。
製品ありきではなく、「素材から考える」。
このアプローチができる点が、一般的な製品開発との大きな違いです。
◾️ 初めての“製品販売”という壁
一方で、課題も明確です。
それは「製品として販売した経験がない」という点です。
生地の販売と製品販売は、まったく別の世界です。
パターン設計。
縫製仕様。
サイズ展開。
品質管理。
すべてが新しい領域であり、一つひとつ学びながら進める必要があります。
◾️ 縫製先探しという現実的な課題
まず着手したのは、縫製先の選定です。
今回は初めての試みということもあり、
小ロット対応が可能な工場が前提になります。
既存のつながりもありましたが、
今回はあえて新規で探すことにしました。
理由はシンプルです。
「最適なパートナーを見つけるため」です。
◾️ ネットを活用した新しい探し方
以前であれば、紹介や人脈が中心でした。
しかし今回は、インターネットを活用しました。
情報は確実に増えています。
ただし、その中から何を選ぶかが重要です。
価格だけでなく、考え方や対応力。
実際にやり取りをする中で見えてくる部分を重視しています。
◾️ 現在は見積もりと調整の段階
現在は、複数の候補先から見積もりを取り、
条件のすり合わせを進めている段階です。
価格、品質、対応スピード、柔軟性。
どれか一つではなく、全体のバランスで判断する必要があります。
このプロセス自体も、新しい経験として非常に学びが多いと感じています。
◾️ 目標は“今秋のリリース”
スケジュールとしては、今秋のリリースを目指しています。
もちろん、初めての取り組みですので、
予定通りに進まないこともあるでしょう。
それでも大切なのは、まず「形にすること」。
ここを乗り越えることで、次の展開が見えてきます。
◾️ 情報収集のため展示会へ
並行して、情報収集のために展示会にも足を運びました。
訪れたのは、FaW TOKYO:ファッション ワールド 東京
ファッション業界の中でも規模の大きいイベントの一つです。
◾️ 現場に行くことで見えるリアル
展示会の魅力は、「体感できること」です。
カタログやネットでは分からない、空気感。
人の熱量。
現場のスピード感。
実際に足を運ぶことでしか得られない情報があります。
◾️ 縫製工場EXPOで感じた変化
中でも印象的だったのが、アジアの縫製・生産工場EXPOです。
特に中国のOEM・ODM企業の存在感は大きく、
その規模と対応力には改めて驚かされました。
生産のグローバル化は、想像以上に進んでいます。
◾️ 海外生産という選択肢の現実
現時点ではロットの関係もあり、海外生産は検討していません。
しかし、情報として知っておくことは非常に重要です。
ミニマムロット。
コスト構造。
納期感。
選択肢を持つということ自体が、大きな価値だと感じています。
◾️ 小さな一歩が未来をつくる
今回の取り組みは、決して大きなプロジェクトではありません。
むしろ、小さな一歩です。
しかしこれまでの経験から言えるのは、
「すべては小さな一歩から始まる」ということです。
◾️ 機屋の仕事は進化し続ける
機屋の仕事は、決して固定されたものではありません。
時代に合わせて変化し、
新しい価値を模索し続ける。
その積み重ねこそが、今の自分たちの仕事を形づくっています。
◾️ 次回予告:輸出EXPOでの気づき
今回はここまでとさせていただきます。
次回は、「日本のファッション輸出EXPO」で感じたこと、
特に印象に残った内容についてお伝えしていきます。
現場で見て、感じたリアル。
そこから見えてきた可能性。
引き続き、実体験をもとにお届けしていきますので、
どうぞよろしくお願いいたします。