バイヤー編
〜新人バイヤー〜
こんにちは。
糸偏コラム「私の回顧録」第7回です。
前回は、マネージャーとして「人を育てることは、自分を育てること」だと身をもって学んだお話をしましたが、今回はそこから少し立場が変わり、“バイヤー”という役割を任されるようになった頃のお話です。
いま振り返ると、この時期は私の仕事人生の中でも、かなり濃度の高い時間だったように思います。 現場、数字、商品、人、流行、失敗、迷い――その全部が一気に押し寄せてきた時代でした。

こんにちは。
糸偏コラム「私の回顧録」第7回です。
前回は、マネージャーとして「人を育てることは、自分を育てること」だと身をもって学んだお話をしましたが、今回はそこから少し立場が変わり、“バイヤー”という役割を任されるようになった頃のお話です。
いま振り返ると、この時期は私の仕事人生の中でも、かなり濃度の高い時間だったように思います。 現場、数字、商品、人、流行、失敗、迷い――その全部が一気に押し寄せてきた時代でした。

たしか入社3年目。 マネージャー業務にもようやく慣れてきて、「あ、ちょっと仕事が回り始めたかも」と思い始めたタイミングでした。
そんなある日、上司からふいに言われたひと言。
「次から、バイヤーもやってみないか?」
……え? バイヤー?
正直なところ、頭の中は「???」でした。
バイヤーといえば、展示会を回って、商品を選んで、数字を動かして、トレンドを読む――
なんとなく“すごそう”な仕事というイメージはありましたが、まさか自分が、という感覚です。
しかも担当を聞いて、さらにびっくり。
任されたのは、
・ スーツ
・ ジャケット
・ コート
・ ドレスシャツ
・ ネクタイ
いわゆるビジネススタイルを構成する三種の神器+α。
心の中で思わずツッコミました。
「重い!」「範囲広い!」「渋い!」
華やかなカジュアルとは違い、 一見すると地味。でも、実は一番“誤魔化しがきかない”カテゴリーです。
素材、縫製、シルエット、サイズ感、価格設定―― 少しズレただけで、まったく売れない世界。
正直、プレッシャーしかありませんでした。
当時の肩書きは「課長代理」。
……代理、です。
字面だけ見ると偉そうですが、実態は完全にバイヤー一年生。 周囲を見渡すと、百戦錬磨の先輩バイヤーたちがずらり。
・ 新入社員時代にお世話になった元店長
・ 新宿の有名ショップで鳴らしていた実力派
・ 数字にも商品にも異常に強い猛者たち
その中に、ポンと放り込まれた自分。 「これはもう、やるしかないな…」 腹をくくるしかありませんでした。
新人バイヤーとしての毎日は、とにかく足で覚えるところから始まりました。
上司のバイヤーに同行して、 ひたすらメーカーを訪問する日々。
・ 商品を見る
・ 触る
・ 説明を聞く
・ 質問する
・ メモする
これの繰り返し。
朝から晩まで展示会や商談が続き、 頭の中は情報でパンパン。
正直、最初の頃は 「さっきのメーカー、どこがどこだっけ?」 という状態でした。
でも、この“量”があとあと効いてくるんです。
中でも強烈に印象に残っているのが、 岐阜で開催されるGFF(岐阜ファッションフェスタ)。
年に3回開催される、いわば“岐阜アパレルの祭典”。
とにかく人、人、人。
その中を、上司の後ろについて歩き回る私。 歩きながら、上司がポツリと言うんです。
「ここは去年より素材が良くなったな」 「この会社、企画が変わったぞ」
……え? どこでわかるの?
私には、同じ服にしか見えない。 でも、上司の目には“変化”がはっきり映っている。
「バイヤーの目って、こうやって育つんだな」
そう実感した瞬間でした。
東京では、 墨田区〜両国〜錦糸町エリアにも頻繁に足を運びました。
ある日、スタッフから 「これ、私が考えた売り方で売れました!」 という報告があったのです。
この一帯は、ニットやカットソー系メーカーが集まるエリア。 Tシャツやスウェットなどの、カジュアルアイテムは、 ショップの売上を支える大事な主役です。
営業さんとの雑談の中でポロっと出てくる、
・ この素材、実は相当苦労した話
・ 工場とのやり取り
・ 原価のギリギリの話
こうした話が、後々の判断材料になるんです。
バイヤーの仕事を続けるうちに、 私はあることに気づきました。
それは、「売れそうだからだけでは、 自信を持って仕入れられない」、ということ。
なぜこの商品が生まれたのか。なぜこの素材なのか。なぜこの価格なのか。
そこに理由や物語があると、自分の中で納得できる。
だから私は、 営業担当だけでなく、できるだけ企画の人とも話すようにしました。
背景を知ると、 販売現場に伝える言葉も変わります。
ただのスペック説明ではなく、
「この商品、実はこういう想いで作られていて…」 「ここ、見た目は地味だけど、実は一番こだわっていて…」
そんな生きた言葉になります。
それが店頭でお客様に伝わり、 「じゃあ、これにします」と言われたとき。
ああ、バイヤーやってて良かったな、と思いました。
この頃、よく読んでいたのが、
・ バイヤー必勝マニュアル
・ 繊研新聞
最初は業界用語だらけで、正直ちんぷんかんぷん。
でも、読み続けていると、 ある瞬間、バラバラだった知識が スッとつながる瞬間が来るんです。
点が線になり、線が面になる。
あの感覚は、今でも忘れられません。

数年経つと、別の問題が出てきます。
それがマンネリ。
「これは前も売れなかった」 「似たのやったことある」
過去の記憶が、判断を鈍らせる。
でも、ファッションはリバイバルの世界。 同じようで、同じじゃない。
「食わず嫌いはやめよう」、固定観念は敵だ!
流行アイテムも、まずは一度取り入れてみる。自分の“好み”や“経験”だけに頼らず、あくまでフラットに見る。その心がけが、新しい発見や売れ筋をつかむヒントになるのだと私自身に言い聞かせていました。

ある日、妻との何気ない会話。
「最近、何が売れてるの?」 と聞いたら、返ってきたのは、
「これ可愛いでしょ? 私もそう思うんですって言うと、売れるのよ」
理屈よりも、 共感が人を動かす。
それから私は、 仕入れの際に「消費者目線」をより強く意識するようになりました。
バイヤーは、 作る人と売る人をつなぐ仕事。
どちらの立場も知っているからこそ、 橋渡しができる。
この時期に学んだことは、 今の私の根っこにも、しっかりつながっています。
次回は、 バイヤーとしての迷い・失敗・試行錯誤について、 もう少し踏み込んでお話しします。
うまくいかなかった仕入れ、 数字に悩んだ日々、 そしてそこから見つけた小さな工夫。
少し笑える話も交えながら、お届けしますので、 どうぞ次回もお付き合いください。
それでは、また。
◀︎◀︎◀︎ 【2025年12月22日】 【2025年12月24日】 ▶︎▶︎▶︎
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