マネージャーでの経験
〜育てる存在〜
こんにちは。
糸偏コラム「私の回顧録」第6回です。
前回は、転職初日の強烈な洗礼や、店長として初めて「仕掛けて売れる」という成功体験を味わったお話をしました。 今回はその続きとして、群馬県内3店舗を統括するゾーンマネージャーとしての経験についてお話ししたいと思います。
店長という立場から、さらに一歩引いた視点で店舗を見る役割へ。 この経験は、私の中で「仕事観」だけでなく、「人との向き合い方」を大きく変えてくれました。

こんにちは。
糸偏コラム「私の回顧録」第6回です。
前回は、転職初日の強烈な洗礼や、店長として初めて「仕掛けて売れる」という成功体験を味わったお話をしました。 今回はその続きとして、群馬県内3店舗を統括するゾーンマネージャーとしての経験についてお話ししたいと思います。
店長という立場から、さらに一歩引いた視点で店舗を見る役割へ。 この経験は、私の中で「仕事観」だけでなく、「人との向き合い方」を大きく変えてくれました。

入社から約1年半。 ある日、会社から告げられたのが、群馬エリア3店舗のゾーンマネージャー就任でした。
担当店舗は、太田市と館林市にある3店舗。 一見すると、キャリアアップのチャンスに聞こえますが、実情はなかなか厳しいものでした。
というのも、前任の店長たちはすでに全員退職。 店舗には明確なリーダーが不在で、売場の空気もどこか沈んでいました。
正直に言えば、 「これは…なかなか大変そうだぞ」 というのが、最初の印象でした。
実際に店舗を回ってみると、その状況は想像以上でした。
売場はどこか覇気がなく、 スタッフ同士の会話も最低限。 「売ろう」というより、「とりあえず回している」 そんな空気が漂っていました。
売上不振ももちろん問題でしたが、 それ以上に気になったのは、 スタッフの表情に自信がないことでした。
これは、商品や立地の問題だけではない。 そう直感的に感じました。
そこで私が最初に取り組んだのは、 何かを変えることではなく、話を聞くことでした。
「今週は何が売れた?」 「それ、どうして売れたと思う?」
売上報告ではなく、あくまで会話として。 答えが正解かどうかよりも、 自分の言葉で考えて話してもらうことを意識しました。
最初は、みんな少し戸惑っていました。 それも無理はありません。 それまで、そうした問いを投げかけられることが、ほとんどなかったのですから。
販売の現場は、忙しいとどうしても 「やることをこなすだけ」 になりがちです。
でも、本来の販売はそうではない。 売れた理由があり、 売れなかった理由がある。
その背景を考えることで、 次の一手が見えてくる。
私は、その感覚をスタッフと共有したいと思っていました。
とはいえ、 「考えよう」「やってみよう」 と口で言うだけでは、人はなかなか動きません。
だから私は、まず自分が率先して動くことにしました。
売れ筋商品の選定。 売場のレイアウト変更。 接客トークの組み立て。
すべてを「指示」するのではなく、 「こうやってみたらどうだろう?」 と、一緒に考え、一緒に試す。
マネージャーだからといって、 現場から離れるつもりはありませんでした。

そんな取り組みを続けていると、 少しずつ変化が現れ始めました。
ある日、スタッフから 「これ、私が考えた売り方で売れました!」 という報告があったのです。
そのときの、少し誇らしげな表情。 今でもよく覚えています。
「販売って、面白いですね」 「お客様に喜んでもらえると、嬉しいです」
そんな言葉が、自然と聞こえるようになりました。
不思議なもので、 一人が変わると、周りも少しずつ変わります。
声が出るようになり、 相談が増え、 売場に活気が戻ってくる。
数字以上に、 空気が変わったことが、何より嬉しかったです。
あるとき、 「今、何が売れていますか?」 と聞くと、ほとんどのスタッフが即答します。
でも、その答えが、 必ずしも実際の売上データと一致しているとは限りませんでした。
人は、自分が売った商品や、印象に残った商品を 「売れている」と思い込んでしまうものです。
そこで私たちは、 POSレジのデータを一緒に確認するようにしました。
「実際はどうだった?」 「数字で見ると、こうなってるね」
正解だったら、しっかり褒める。 違っていたら、否定するのではなく、 「じゃあ、次は何を売りたい?」 と問いを投げる。
叱るよりも、 考える力を育てることを意識しました。
売りたい商品が決まったら、次は どう売るかです。
どこに置くか。 どう見せるか。 どんな言葉で声をかけるか。
それを一緒に考え、 売れる体制を整えていきました。
そして、実際に売れると—— それはスタッフにとって、 何よりの自信になります。
一度「売れた」経験をすると、 スタッフの行動は明らかに変わります。
自分から声をかける。 売場を気にする。 工夫を考える。
「売らされている」から 「売りたい」へ。
その変化を間近で見られたことは、 マネージャーとして、何よりの喜びでした。
この経験を通して、 私の中でマネージャー像がはっきりしました。
それは、 支配する存在ではなく、育てる存在。
指示を出す人ではなく、 考えるきっかけをつくる人。
成果を独り占めする人ではなく、 成長を一緒に喜べる人。
自分が売れて嬉しい、という喜びとは違い、 誰かが成長する姿を見て嬉しくなる。
その感覚は、 これまでの仕事人生で、初めて味わうものでした。
「マネージャーって、こういう仕事なんだな」 そう実感できた瞬間でした。
人に教えるためには、 自分の考えを言葉にしなければなりません。
なぜそうするのか。 なぜそれが大切なのか。
説明する過程で、 自分の考えも整理され、 理解が深まっていきます。
人を育てることは、自分を育てること。 これは、この頃に身をもって学んだ教訓です。

こうして、販売現場とマネジメントの両方を経験した私に、 次なるステージが用意されていました。
それが、バイヤーという仕事です。
売る立場から、 「選ぶ立場」へ。
洋服との関わりが、 また一段、深くなっていくことになります。
そのお話は、次回のコラムでじっくりと。 どうぞ、楽しみにしていてください。
◀︎◀︎◀︎ 【2025年12月21日】 【2025年12月23日】 ▶︎▶︎▶︎
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